妊婦に対するアセトアミノフェンは神経発達症を引き起こすのか?

今回、結構センセーショナルな話題が出ていました。それは、妊婦に対するアセトアミノフェンが神経発達症を引き起こすトリガーになるのかどうか?という話題です。

過去、私の記事で、アセトアミノフェン(かぜ薬)の妊婦への使用が神経発達症(ADHDやASD)に関連するかもしれないという論文を引用しました。それはこの報告です。

🔴妊娠期のアセトアミノフェン使用がADHDとASDのリスクに?
【原文】Association of Cord Plasma Biomarkers of In Utero Acetaminophen Exposure With Risk of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder and Autism Spectrum Disorder in Childhood
【和文】出生前のアセトアミノフェン曝露と幼児期の注意関連行動との関係
【雑誌】JAMA Psychiatry. 2020 Feb 1;77(2):180-189(ジョンズ・ホプキンス大学:アメリカ)
【インパクトファクター2023】25.91

かなり高いスコアの論文に掲載されたこともあり、物議を醸しだした内容となっています。
その内容とは・・・。


✅妊婦のアセトアミノフェン使用が児のADHD・ASD発症リスクとなるという仮説がある
✅2016年のイギリスの発表を受けて米国で行われた大規模検証試験
✅ボストン医療センター996名の母子を対象として、3種のアセトアミノフェン代謝産物の臍帯血濃度と児の精神発達アウトカムとの関連を検討
✅在胎中のアセトアミノフェン曝露と児のADHD・ASD発症リスクには強い関連が見られた
(オッズ比 ADHD:2.3~3.5、ASD:1.6~4.1)
✅FDAは、妊娠中の痛み止めは熟考の上使用するよう強く推奨

また、それ以外にもアセトアミノフェンと神経発達症の関連についての報告も出ていました。

🔴妊娠期のアセトアミノフェン曝露量は子のADHDに関連
【原文】The relationship of prenatal acetaminophen exposure and attention-related behavior in early childhood
【和文】出生前のアセトアミノフェン曝露と幼児期の注意関連行動との関係
【雑誌】Neurotoxicol Teratol.2024 Jan-Feb:101:107319.(米国イリノイ大学:アメリカ)
【インパクトファクター2023】2.9

これを受けて、風邪で苦しんでいる妊婦さんにアセトアミノフェンが使えないかもしれない・・・という事で、「今後、風邪で苦しむ妊婦さんにどうしてあげるべきなのか?」という事が議論されていました。

結局のところ、アメリカではこのアセトアミノフェンが妊婦に頻回利用されていましたが。この2020年あたりの報告を受けて使用はかなり厳格となってしまったという背景になっています。 

アセトアミノフェンは胎盤を通じて子どもに移行すると言われています。今まではさしあたって不都合のある報告は出ていませんでしたが、ADHDなどの子どもの神経発達に関わる点において影響を及ぼすというのは盲点でもありましたね。

このことから、今後も再現性を取っていくことは大事だが、妊婦へのアセトアミノフェンの使用は注意するべきという論調でした。

しかし、最近、この報告とは異なる結果が論文で報告されました。

スウェーデンからの報告で、有名な医学雑誌JAMAに2024年4月に掲載された内容です。
JAMAという雑誌は、1883年の創刊以来、医療関係者に最新の治療、医療情報を提供し続けているアメリカで最も権威のある医学・医療雑誌のひとつとなってます。

その内容なので、臨床に大きな影響を与える可能性のある要素があると言っても過言ではありません。

この検証は、1995~2019年に出産をした約248万人の出産前記録/アセトアミノフェン処方記録を調査しています。

ある意味すごい膨大なデータを使用しているという点が大きな評価ポイントになってますね。
そして妊娠中のアセトアミノフェン使用と神経発達症との関連性を前向きに検討しています。

 検討の結果、18万5,909人(7.49%)でアセトアミノフェンが処方されており、子どもに移行している可能性があるとされています。結果は、アセトアミノフェン未使用群(229万4888人)に対する仕様群の10年後でのリスクは、

✅ASD(自閉スペクトラム症:1.33% vs. 1.55%)
✅ADHD(注意欠如・多動症)(2.46% vs. 2.87%)
✅知的障害(0.70% vs 0.82%)

といずれもアセトアミノフェン処方群で高かったという結果になっていました。

より詳細な解析(Cox比例ハザードモデル解析)の結果、非曝露群に比べ曝露群では、

✅自閉症〔HR:(ハザード比)1.05、95%CI 1.02~1.08、10歳時のリスク差0.09%、-0.01~0.20%〕、
✅ADHD(HR 1.07、1.05~1.11、10歳時のリスク差 0.21%、0.08~0.34%)
✅知的障害(HR 1.05、1.00~1.10、10歳時のリスク差 0.04%、-0.04~0.12%)

となっており、アセトアミノフェン使用群での発達症がいのリスクが若干高かったという内容になっています。

※HR(ハザード比)とは、イベントの起こりやすさを試験期間全体の平均的な群間差として推定したもので1を下回ると、より顕著な差があると判定されます。

今回の場合では、このHRはアセトアミノフェン使用群が未使用群に対してリスクはどの程度を?を検証するには欠かせないポイントとなっています。

今回、このHRの結果から、若干、使用群の方が高い傾向がありますが、統計上ではどちらもほぼ変わらないという事になっています。

また、もう一つ別の解析が加えられています。

同胞調整モデルという日常生活の因子を絡めて解析したところ、アセトアミノフェン使用群と未使用群において、ASD(HR 0.98、95%CI 0.93~1.04、10歳児のリスクは0.02%)、ADHD(HR 0.98、0.94~1.02、10歳児リスクは-0.02%)、知的障害(HR:1.01、0.92~1.10、10歳児リスク0%)となっており、有意差がつかない結果となっていた。

他の論文とは解析手法(同胞調整モデル)の違いはあるが、様々な背景因子を考慮した上での検証ではアセトアミノフェンと神経発達症との関連を示唆するような結果となっていなかったというものでした。

考察では、「確かに同胞調整モデルで調整しなければ、アセトアミノフェン使用群は神経発達症に対するリスクをわずかに上昇すしているが、様々な「交絡因子:その他の大きな要因」が存在する可能性がある」として、妊娠中のアセトアミノフェン使用が直接、神経発達症の発症に寄与する根拠にはならないとしています。

最終的には、最も可能性が高いのは「遺伝的要因」ではないか?と結論付けられてます。

遺伝的要因を加味した上で、アセトアミノフェンとの関連性を調べる・・・というのは、今後、検証しようとしても現実的に非常に難しいです。再現性を確認したいと思っても容易なものではないでしょう。

つまり、現状としては、アセトアミノフェンが直接、神経発達症を引き起こすものではなかろう・・・。それよりも遺伝的要因だろう・・・。という事になろうかと思います。

今後、これがどのように実臨床で解釈され、アメリカでの妊婦に対するアセトアミノフェン使用の制限に緩和がかかるかのかはよくわからない点がありますが、過剰に意識しすぎて処方を止めるというところまでは至らない・・・のではないかと。

ただ、実際問題として気をつけねばならないのは、妊婦さんの立場としても、

💡安易に自己判断で市販のかぜ薬を飲まない
💡風邪を引かないように周囲に徹底(マスクやうがい手洗いを徹底的に)
💡特に妊娠中期には風邪を引かないように対策
💡かかりつけ医に相談する体制を作っておく
💡臨床医は状況を見て必要最低限のアセトアミノフェンの処方をする

を意識しておくことは重要でしょう。

そもそも、妊婦におけるアセトアミノフェン使用が神経発達症に関わるかもしれないという議論があった事さえ知らない臨床医も多いのが事実かと思いますが、まずはこういう経緯があるという事を、医療者側も妊婦側も知っておく必要があるのかもしれませんね。

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この記事を書いた人

海外での子育て事情や科学論文などから日本の育児に行かせる内容を情報共有していきます。自分の子が発達特性持ちなので、発達障害関連の話題も盛り込むかと思います。

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