ADHD(注意欠如多動症)に子にゲームばかりさせていいものか?
「ADHD児に対してゲームをさせることは是か非か?」
よく議論に上がるこのテーマ。
ゲームのし過ぎは良くないってのはおそらくどの親御さんも共通見解ではないでしょうか?
しかし、程度感や代替え案はどうするべきか?というところはなかなか線引を引きにくいのが現状かと思います。
ADHDの特性がある子に対してゲームをさせることに関する認識は様々ですが、良い点と悪い点を列挙してみます。
このようにADHD児にとって、良い点も悪い点もはらんでいるのがゲームです。
このゲームとの付き合い方もご家庭によって善し悪しがあるのは事実です。
しかし、我々親の立場としても、良い点と悪い点を理解した上で、特性を持つ子とどうゲームを突き合わせてあげるかも大事なポイントになってきそうです。
それでは最近の科学論文において、ADHDにおけるゲーム環境の適切な位置づけはどうなっているのかについて見ていきたいと思います。
まずは良い点から紹介したいと思います。
ADHD児にとってのビデオゲームの有用性
海外ではゲームをVideo-Gameとして表現されており、このビデオゲームがADHDの治療にも関わるのではないか?という点で研究を進めています。スペインからの報告です。
●条件付きでのビデオゲームはADHD児の注意力改善に寄与する?
Adherence, frequency, and long-term follow-up of video game-based treatments in patients with attention-deficit/hyperactivity disorder: A systematic review
【邦題】ADHDにおけるビデオゲームを用いた治療のアドヒアランス、頻度、および長期追跡調査:系統的レビューBrain Behav. 2023 Sep 24;e3265.【スペイン】
【何について調べているか?】
ビデオゲームがADHD患者の治療やリハビリテーションに大きな可能性を持つことが示されている。
本総説の目的は、ビデオゲームとADHDの関係に関する科学文献を系統的にレビューすること。
ADHDの小児および青年の治療のアドヒアランス、介入の頻度、ビデオゲームの長期フォローアップに焦点を当てています。
【何がわかったか?】
18の試験の総説です。ビデオゲームを用いた介入はADHDの症状を改善し、一定の治療効果を示すことが示された。
また、レビューされた研究では、介入頻度(ゲーム時間)は30分を週3~5回が最も一般的であった。
しかし、ADHD患者において長期的な効果を示すビデオゲームを用いた検証結果のエビデンスはほとんどない。
【日常にどう活かすか?】
かねてよりADHDとゲームの関連は報告されていましたが、短期的な注意力向上に関する治療には有用とされるものの、
ゲームの種類や時間などはきちんと選別する必要があることが言われています。
研究の中にはテトリスなどのゲームはワーキングメモリー強化に寄与したという報告もあったりします。
ただし改善は有意ではないという研究も多いことに注意をすべきポイントです。強調されているのは、運動や認知を広げるビデオゲームが主体となっており、今はやっているオンラインゲームなどは対照となっていない点も注意です。
たとえば、フォートナイトや刺激性の高いゲームなどはメリットよりもデメリットが多い可能性もありそうです。
論文中には明記はされていませんが、あくまでもゲームの種類は身体活動やパズルゲームなどが主体です。
ADHD児は過集中の問題が指摘されています。研究はほとんどゲームは1時間以内となっており、生活の乱れには言及していない点も気にする必要があります。日常生活でゲームに触れる際は、結構な時間をゲームに割いているケースが散見されます。臨床試験などで検証されているゲームの種類と時間制限は日常生活の状況と乖離があることを念頭に置かねばなりません。
ビデオゲームは認知や注意力改善に有用とされる報告はあれど、今、子どもたちの間で「流行っているゲームとの折り合いはつかずライフスタイルを乱す。」という依存状態の問題点には触れていません。ですのでこの試験結果を日常生活で考えるのであれば、長期に触れさせるとしてもゲームの種類と時間は遵守するという制約下のもとで成り立つのかもしれません。
実際にゲーム依存の最も強い影響を受けるのは男性だという論文も引用されており、この点に関しては慎重に考えていく必要がある点も触れられています。
したがって、日常生活では、刺激性はなるべく避けて思考力や身体活動を増すゲームを決められた時間で行うという前提で、ADHD児の集中力や認知力工場に寄与していたと、現時点では考えておく必要がありそうです。
やはりゲームは楽しくて刺激的なもの、認知の拡大には寄与するのかもしれませんが、無秩序なままだと子どもの特性をかなり強めに顕在化させてしまいゲーム依存に入りやすくなる可能性があることには注意してく必要がありそうです。
ADHD児におけるゲームの注意点
次に悪い点に関してですが、日本の弘前大学から報告がでています。
●Psychosocial Adjustment and Mental Distress Associated With In-Game Purchases Among Japanese Junior High School Students【Front Psychol. 2021 Aug 3;12:708801】【弘前大学】
過度のゲーム課金が心理社会的不適応や精神的苦痛のリスクを高め、ゲームやギャンブルの行為を予測することが示唆されています。合計 335 人の中学生 (12 ~ 15 歳) が調査に参加し、毎日のオンライン ゲームの利用状況、ゲーム内購入、心理社会的適応、精神的苦痛を評価するアンケートに回答しているといった内容です。
どちらかというと、今の日本で流行しているゲームを対象にしているというものになるでしょう。
結果として、50人の中学生ゲーマーは過剰な課金をしており、軽度の課金者に比べて心理社会的調整に関する行動上の問題などがより多く見られた。という結果になっています。
そして、ゲーム内課金を行った中学生では非購入者に比べて多動性/不注意がより多く見られていた。(購入が計画的か計画外かは関係ない)という結果でした。
これらの調査結果は、青少年が計画外のゲーム内購入を行うかどうかを理解することが、親や支援者が、社会不適応傾向を持つオンライン ゲーマーに対する有用なアプローチを検討する上で重要になってくると裏付けています。
直接ADHD児が重課金に結びつくというような研究とはなっていませんが、重課金してしまう児の特徴として、「多動性/不注意」が指摘されている点は看過できないポイントではあります。
ゲームによる看過できない視力低下の可能性も
それ以外にも視力の問題に付いて指摘している報告もあったりします。
下記はゲームではないですが、幼少期の動画視聴は近視のリスクを高めるという報告も出ています。
●幼少期の長時間の動画視聴は近視のリスクを高める可能性
Prevalence of Myopia and Its Associated Factors Among Japanese Preschool Children
【Front Public Health. 2022 Jun 22;10:901480.(東邦大学医学部眼科学教室)】
【何について調べているか?】
日本人の就学前児童における近視の有病率と、球面等価(SE)、軸長(AL)、軸長と角膜曲率半径の比(AL/CR)との関連因子を調査している。
【何がわかったか?】
2021年の日本の就学前児童における近視および強度近視の有病率は、それぞれ2.9%と0.2%であった。4~6歳児において、長いALは高齢、男性、親の近視、スクリーン使用時間と関連していた。近視のリスクが高い子どもは、早期予防のために親の近視情報に基づいて早期に特定することができる可能性がある。
【日常にどう活かすか?】
親御さんの近視情報と、乳幼児期の長時間の動画視聴は近視のリスクを高めているという結果です。親が近視であり、かつスクリーンタイムが長いということは、それだけお子さんの近視のリスクを高める可能性もありそうです。日常生活で子育てに動画に力を借りたいという現状はわかりますが、やはりこのようなリスクを鑑み、親としての子育ての環境を考えていきたいものです。
ゲームや動画視聴は子の睡眠時間の短縮を引き起こす
また、その他の報告では、ゲームやメディアなどの過剰な動画視聴は睡眠時間の短縮を引き起こすことが報告されていますが、つい最近では、幼児期の睡眠に影響を与えるメディア環境の種類も問題視されています。
●【スマホ】Association between Media Use and Bedtime Delays in Young Children: An Adjunct Study of the Japan Environment and Children’s Study【Int J Environ Res Public Health. 2022 Aug 2;19(15):9464.】【千葉大学】
本研究では、4~8歳児を対象に、複数のメディア利用、デバイスごとのスクリーン時間、スマートフォンやタブレットの利用目的と就寝時刻の遅れとの関連について検討しています。
参加者は、全国規模の出生コホート研究である「日本環境と子ども研究」から募集。1837人の子どもの母親が、アンケートでスクリーンメディアの使用と就寝時間を報告。(あくまで親からの報告であることは注意点)
結果としては、就寝時間の遅れ(22時以降)とメディア機器の使用(スマートフォン、タブレット、携帯ゲーム機、コンソールゲーム機、テレビ・DVD)の関連は見られなかった。しかし、TV/DVD以外に3つ以上のデバイスを使用している子どもは、就寝時刻が遅れる可能性が高かった。
就寝時刻の遅れは、スクリーンタイムが0.1~1時間/日であってもスマートフォンの使用と関連し、タブレット、携帯ゲーム、コンソールゲームではスクリーンタイムの延長と関連したが、TV/DVDでは関連がなかった。
また、スマートフォンやタブレットでのゲームも就寝時間の遅れと関連していた。
幼児の十分な睡眠を確保することは、幼児期の発達野店でも最も重要になってきます。家庭では、子どもの複数機器の使用や長時間の機器使用(特にゲーム)を抑制するための実現可能な対策と、それを支援する社会環境を整備する必要がありそうです。
一方で、高齢者においては、ゲームにより認知機能を向上させ、認知症予防にも可能性があるという点が指摘されているので面白いところです。
私もセカンドライフに到達したときにはゲーム三昧したいと思います(もう発達はさほど問題もないかもしれませんので、視力低下にだけは気をつけて認知症予防をしていきたいものです💦)
まとめ
✅思考力や身体活動を伴うゲームはADHD児の機能強化に寄与しているというエビデンスが多かった
✅研究では30分以内、週3~5回の上記ゲームの使用で効果があった
✅今流行のゲームでの検証とはなっていない点は注意点
✅短期的なゲームの効果は見えているが、長期に渡る改善が見込めているかは不明
✅ゲーム依存の最も強い影響を受けるのは男性という統計が得られている
✅オンラインゲームの重課金者は多動/衝動性が高い子が多い傾向であった
✅幼少期のゲームや動画視聴は近視のリスクを高める
✅スマホやタブレットなどのゲームは幼児の就寝時間の遅れと関連
我々も文明の利器をうまく活用できる子育て環境を作っていきたいものですね。
ゲームの効果を最大化、そして節度ある家庭での付き合い方。ご家庭のマイルールを見直す一つの布石となりましたら幸いです
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