まさかの産後うつの要因が世界的ゲノム解析で見えてきた?

すべての母親を悩ませる「産後うつ」。日本産後ケア学会が発表した、産後1年未満の母親を対象に行なった2020年度のアンケートでは24%の母親でうつ傾向があったとのことです。

ちょうどコロナ禍のタイミングでったということも相まり、かなり高い頻度で報告が上がっています。なにしろ、出産した4人に一人はうつ症状を抱えるということになるので、とんでもない割合です。

それだけ、母親が孤立した状態で育児を行っているということと、ホルモンバランスの影響や環境要因などに敏感なタイミングと言っても過言ではないでしょう。

さらにやっかいなのは、この時期に入るタイミングで母親もパートナーも2/3が産後うつの認識がないということであったということです。

今日ご紹介するのは、海外からの報告で、どういう人が先天的に「産後うつ」になりやすいのか?というテーマです。

先程もあったように「自覚に乏しい産後うつ」。このリスクが高い人を事前に知ることで具体的な行動が取れるかもしれません。

その一環で、海外で大規模な遺伝子レベルの解析が論文上で発表になりました。

その論文について、今日は詳しく紹介したいと思います。

【ゲノム解析】産後うつになりやすい人はどういう遺伝子が関連?
【原文】Meta-Analyses of Genome-Wide Association Studies for Postpartum Depression
【和文】産後うつ病に関するゲノムワイド関連研究のメタアナリシス
【雑誌】Am J Psychiatry:18 Oct 2023
【URL】 https://ajp.psychiatryonline.org/doi/10.1176/appi.ajp.20230053
【著者】Jerry Guintivano:ノースカロライナ大学チャペルヒル校精神医学部
【インパクトファクター】18.112

産後うつ病(PPD)は大うつ病性障害(MDD)の一般的なサブタイプであり、遺伝性が高いと言われていますが、意外とこの背景となる遺伝学的研究は少ないとされています。この団体は、産後うつ病における遺伝的な背景を調べるために遺伝子レベルでのゲノムワイド関連研究の統合解析を行っています。

どういう方が産後うつになりやすいかどうかの傾向を調べるために調査しているというわけですね。

この研究は、全世界レベル対象ということになりますので、日本を見ているというわけではありませんので注意が必要です。人種差も当然あるわけですので、その点を加味した上で参考としての情報として認知頂けると幸いです。

【何がわかったか?】

ヨーロッパおよびオーストラリアにおける遺伝的傾向としては一貫した遺伝子は同定されなかった。

ただし、病態別に次の疾患に関わる遺伝背景「双極性障害や不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、不眠症、初潮年齢、多嚢胞性卵巣症候群」があるヒトでは産後うつとの遺伝的な相関が確認されたようです。

細かくみると、視床の抑制性ニューロンと視床下部のコリン作動性ニューロンが関与しているということが明らかになっています。つまり、視床・視床下部の神経伝達の何かしらの問題が関連している可能性が示唆されたということになります。

【日常や今後にどう活かすか?】

今後のさらなる研究が必要ということにはなりますが、産後うつが様々な遺伝子に関わり合いがある可能性を見出したということになります。つまり単一の遺伝子変異によってリスクが高まるというよりは色々な要因が絡まり合い更にリスク度合いを挙げている傾向が合ったということです。

一般的なうつ病との関連とは高いとされるものの、産後うつは独自の遺伝的背景があることが見出されたことになります。したがって、通常のうつとは異なりそうだということを念頭に入れた上で、この時期特有のストレスをどう緩和していくかが極めて重要になりそうです。

その際には視床・視床下部の関わりが重要ということになっています。ここを司る神経系はGABA作動性の神経伝達と言われてます。

日本では承認されていませんが、アメリカでは商品名ブレキサノロン(一般名:アロプレグナノロン)という神経ステロイドが承認されています。これはGABA受容体に作用する薬剤と言われており、産後うつの治療薬として使用されています。今回の報告は、なぜGABA受容体に関わる製剤が産後うつに有効なのか?という点の理論を固める背景となっています。この医薬品は2019年にアメリカで、2022年にイギリスなどですでに産後うつの第一選択薬として使用されていますね。妊娠中の人への使用は、胎児に悪影響を及ぼすおそれがあるため、出産後に利用されています。

一方で、コストがかなり掛かること指摘されており、1コースの使用で34000ドル、つまり490~500万円はかかる計算。(注射のため入院対応)

もし日本で導入されたとしても3割負担で100~200万円かかることになり現実的ではないことがよくわかります。

また、2023年にアメリカでセージ・セラピューティクス社により、ズラノロンという経口薬が承認されました。これは先程のブレキサノロンよりも効果発現が早いとされ、最短で3日間で効果を示すとも言われています。世界では産後うつに対する治療展開が大きく変わりそうだという気配があります。

産後うつは一般的に出産から2週間ほどで回復に向かうとはされていますが、初期対応を間違えるとその後も数年単位悩むことになり、子どもの養育に大きな悪影響を及ぼす事も知られています。

疫学的には米国で50万人ほどが悩むと言われる「産後うつ」。これらの治療薬はまだ国内では登場していませんが、もし仮に認められるとしても日本も同様にコストとの兼ね合いが出てきそうです。

日本にはない治療薬ですが、現時点でも薬以外にも十分な手立てはあります。今、我々にできることとしては、産後うつは出産期に起こることを想定した上で、パートナーがうまく支えて母親のダメージを軽減することが現実的ではないでしょうか?

現在、男性育休が声高に叫ばれていますが、この点からもこの時期の支えは、今後の夫婦関係においても要になるという自覚を持っておくべきかもしれません。

産後うつは、今回のような遺伝的背景以外にも、周産期で高まるオキシトシンの影響で、母親と子にかなり意識が向きやすいタイミングです。この時期にパートナーがサポートするかしないかで今後の認識は大きく関わってくると言えるでしょう。

育休に無頓着なままでいると、本来は子どもへの愛情の芽を育まねばならない時期に、後々の大きな禍根の芽を育ててしまうことにも繋がりません。我々男性陣もその点を理解した上で、過程のマネジメントも考えていきたいものですね。

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この記事を書いた人

海外での子育て事情や科学論文などから日本の育児に行かせる内容を情報共有していきます。自分の子が発達特性持ちなので、発達障害関連の話題も盛り込むかと思います。

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