2023年日本LD(学習障害)学会第32回大会に出て学習してきました。今年も非常に色々多く学べて感謝です。
今回の大きな学びとしては「ゲーム障害・ネット依存」の日本における最新情報を識ることができたことです。教育講演では独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターに勤務されていた樋口 進先生の講演が印象深かったですね。
樋口 進先生は令和4年には久里浜医療センターを退職されていますが、今も非常勤医師として勤務されています。
ゲーム障害・ネット依存における日本を代表する医師でもいらっしゃります。
今回の大きな学びとしては下記のとおりです。
今の日本のネット・ゲーム依存の実態
(文部科学省データ)
乳幼児のネット利用率が年々増加(1歳児で33.7%、2歳児で62.6%の増加)!
中高生においては、2012年と2017年のネット依存の推移で下記のようになっています。
生活必需品となっているスマホやパソコンやゲーム。もはや生活から切っても切り離せない様になってきています。
大人にとっても生活必需品なわけですから、子どもたちにとっても生活必需品になることは間違いありません。
さらに2020年からはCOVID-19の影響も相まり、この比率はかなり高まっていると容易に予想できます。
致し方ないところもありますが、親である我々も、現状を識り、子どもたちを依存の道に踏み込ませる前に考えるべきところもあるかと思います。
では日本は世界でみて、ゲーム依存が多い状況なのか?についても確認してみたいと思います。
世界におけるゲーム依存の報告は2つほど直近で報告されています。
世界におけるゲーム障害の疫学について
【タイトル】Prevalence of internet gaming disorder in adolescents: A meta-analysis across three decades
【和訳】青少年におけるインターネットゲーム障害の有病率:30年にわたるメタ分析
【著書】Scand J Psychol 2018 Oct;59(5):524-531.(マレーシア:Jia Yuin Fam)
【impact factor】2.56
今までに公開されている16の試験のメタ解析を実施した結果、青年期のゲーム行動症の有病率は4.6%。
男性は6.8%で女性は1.3%となっており男性で多いという結果になっています。
さらに直近ではオーストラリアからも報告が出ています。
【タイトル】Global prevalence of gaming disorder: A systematic review and meta-analysis
【和訳】ゲーム障害の世界的有病率:系統的レビューとメタ分析
【著書】Aust N Z J Psychiatry. 2021 Jun;55(6):553-568.
【impact factor】5.744
2009年から2019年の10年間で行われた53のゲーム行動症の研究から有病率を推定。17カ国の226247人を対象。
世界的な推定有病率として3.05%となっているが、統計の仕方にばらつきがありブレ幅は大きいとされてます。
日本におけるゲーム障害の疫学について
それでは日本はどうなっているのでしょうか?久里浜医療センターの樋口先生が著書の論文によると・・・
【タイトル】Application of the eleventh revision of the International Classification of Diseases gaming disorder criteria to treatment-seeking patients: Comparison with the fifth edition of the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Internet gaming disorder criteria
【邦題】国際疾病分類第11版ゲーム障害基準の治療希望患者への適用
【雑誌】J Behav Addict. 2021 Jan 20;10(1):149-158.
日本でのゲーム行動症の年齢別の有病率として、
✅10-14歳で男性9.2%、女性3.1%、全体6.2%
✅15-19歳で男性12.0%、女性3.0%、全体7.6%
✅20-24歳で男性6.2%、女性2.3%、全体4.1%
✅25-29歳で男性4.0%、女性1.5%、全体2.7%
✅全年齢で男性7.6%、女性2.5%、全体5.1%
という結果になっており、この時点で若者の20人に1人はゲーム依存が疑われているという実態です。
やはりゲーム依存は男性に多い状況となっています。
日本は全体で5.1%となっており、前述した世界の4.6%、またオーストラリアが発表したデータでは3.1%という点から、
日本が極めて多いという状況ではなさそうです。
しかし、神経発達症ではADHDが日本の全人口で8~9%、ASDが1~2%程の現状であると考えると、5.1%という数字もそこそこ大きいものであると実感します。
ゲーム行動症(ゲーム障害)で専門医療機関に受診した患者は令和3年度だけで、
10~19歳が最も多く、男児で368名、女児で81名となっており、
20~29歳で男性104名、女性20名となっています。
意外だったのは、0~9歳が男児で35歳、女児で5名いたというのが驚愕する点です(全体の6%を占めている)
この背景として、当然ながらCOVID-19の影響は間違いなく存在するでしょうが、加えて、親世代が当たり前にゲームやネットに触れている環境であることや、子どもと友達とのコミュニケーションの一環で、ゲームに興味を持ってしまうなどのこともあるでしょう。
それにしても、0-9歳ですでに専門外来40人受診というのは・・・。
氷山の一角ではあるでしょうが、今の日本の問題点の縮図を感じさせるものでもあります。
ネット・ゲーム依存の症状とは?
気になるネット・ゲーム依存の症状にはどういうものか?についてですが、これも症状の出方は様々となります。
まず、このネット・ゲーム依存の状態を病名でいうとどうなるかに関しては、WHOが表明したものを日本語化して「ゲーム行動症」と名付けられています。
ではこのゲーム行動症とはどういう状態なのかというと・・・
🟩ゲームのコントロールができない
🟩日々の生活の中でゲームが最優先
🟩ゲームによる明確な問題(家庭・学校・社会)
🟩問題だと自覚していてもゲームを続けてしまう(健康状態も含む)
この4点を満たし、この状態が12ヶ月以上続く場合をゲーム行動症と診断しています。(世界共通指針)
ただし、医師の中では1年も続かなくともこれらの状態を満たし半年以内の状態でも「ゲーム行動症」と認定することもあります。ポイントとしては、「生活に大きな支障をすでに着たしているかどうか」となります。
実際の症状としても様々です。
身体的健康:脳萎縮、体力低下、骨密度低下、栄養の偏り、やせ症、肥満、眼精疲労、近視、腰痛、
エコノミークラス症候群など
精神的健康:睡眠障害、昼夜逆転、ひきこもり、意欲低下、うつ状態、希死念慮、自殺企図など
が心身面への影響として挙げられます。
特に昼夜逆転による睡眠障害はほぼ必発な状態になっていると言われています。寸暇を惜しんでゲームをするわけですから、睡眠時間すらもったいないという発送になるのも当然かと思います。
また最近は携帯ゲームが主体となっていることもあり、小さい画面を注視するということから若年者の「近視」も急増していると言われています。また、親からの目を割けるために暗いところや布団の下でゲームしたりすることから全般的な視力低下を伴うことも問題視されています。
特に幼少期の長時間の動画やゲーム画面視聴は近視のリスクを高めるという報告が、日本国内でも報告されています。
Front Public Health. 2022 Jun 22;10:901480.(東邦大学医学部眼科学教室)
昼夜逆転による生活を進めてしまっていると、ビタミンDの生成やセロトニン分泌も滞ってしまい、意欲低下や骨密度低下などに繋がっていき、更に引きこもりの状態も続くと、うつ状態や最悪の転帰をたどるという報告もあります。
人間は外見と比べて、内面は我々が思っているほど強くはありません。このような日々を繰り返してしまうと内面から崩れて言ってしまうことが大きな懸念として知られています。
次に社会的な影響としては、
学業・仕事面:遅刻・欠席、授業中の居眠り、成績低下、留年、退学、解雇など
経済面:多額の課金、投げ銭
家族面:家庭内暴力や暴言、親子の関係悪化、現実の友人減少など
と言ったように、周囲にも大きな影響を与えてしまいます。
特に最近は、ソーシャルゲームやオンラインゲームも主体となっており、多額の課金を勧めるようなゲームが多く出ています。強い武器やアイテムを獲得するために課金をするわけですが、限度を超えて課金をすることから、親のお金やネット上での危険な売買に手を出してしまうという事案も未だに多いようです。
日本においても重課金の問題は医学論文でも危険性が提唱されています。さらに課金額が高くなる者ほど、心理面や社会面で多くの問題が確認されたという結果になっており注意が必要です。Front Psychol. 2021 Aug 3;12:708801【弘前大学】
また最近は、ゲームでのインフルエンサーに投げ銭をして応援するという仕組みもできたことから、限度を超えた「推し活」のようなものが増えているのが現状でもあります。
またオンラインでの友達関係を崩したくないために、常にゲームに参加していなければならないという被害妄想や、オンライン上での関係性を重視するあまり、現実の家族や他者とのコミュニケーションから遠ざかってしまうのも大きな問題点です。個々まで来ると子供の異常も見えにくくなってしまうため、対応が更に後手に回ってしまうということもあります。
悲鳴を上げる子どものこころ
上述したゲーム行動症の症状について、気をつけなければならないのが、「子どものこころの合併症」です。表面化することが少ないため、周囲からの発見が後手に回りやすいことで知られています。
更にゲームに対する依存度の強さは、子どものこころの問題に関連しているという報告も出ています。
このようなこころの問題の合併症は、ネット・ゲーム依存のリスク因子でもある一方で、結果として更に強まるものでもあると言われています。つまり、子どももこころに問題があるのでネットゲーム依存にもなりやすいですし、依存に慣ればさらにこころの問題も強まってしまうという悪循環に陥ることになります。
一方で、ゲーム行動症における精神的合併症の「傾向」は見えたとしても、診断まで行き着かないものも多々あります。
普段観察している親御さんの意見や、当の本人の意見から臨床医も判断して診断を行うことになりますので、その意見が明確になっていない、問題に至らないとなった場合は精神疾患として認定されないという背景があります。
さらに、ゲーム行動症に加えて、精神的合併症を呈した者は、依存傾向がより強く重篤となり回復が困難になってしまうという問題点をはらんでいます。
普段の家庭環境や外部環境を含めて、子どもに起こっている問題点を把握することや、子供の気質や特性を理解した上で養育者がその気づきをどこまで持っているか?また、対応をしているか?という点が最も大きな要素となります。
気をつけなければならない「子どもの特性」
特に気をつけるべきは、子どもの神経発達症とゲーム行動症の関係です。
神経発達症にはADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)を含みます。
ゲームをしている際には「快楽」や「報酬」に関連する神経回路が活発化し精神的な健康状態に影響すると言われています。
2021年に発表されたADHDとゲーム行動症の総説において、非常に多くの見解が得られています。
ADHD-Gaming Disorder Comorbidity in Children and Adolescents: A Narrative Review
小児および青年期におけるADHDとゲーム障害の併存:ナラティブレビュー
Children 2022, 9(10), 1528;
となっています。
意外なことにゲームはADHDの子へのリハビリテーションのプログラムに含まれてはいます。
ただ、パズルゲームやシリアスなゲーム(アドベンチャーゲーム)や運動ゲームなど、他の感覚を使うゲームの用途となっており、今の流行しているゲームとはタイプが異なることは知っておかねばなりません。
最も最悪なパターンは他の問題からの回避のためにゲームを選んでしまうとそこからの脱却が難しいという現状であるということです。ゲームに子育てをお願いしてしまっていると家族間の絆を構築しにくいという点も問題点であるでしょう。
このようにADHD者の特性を理解した上で、ゲームのメリットとデメリットも我々親は認識しておく必要がありそうです。
ADHDやASDに対する親側のアプローチとしては、
※【ADHDのゲーム依存】
・親はADHDの特性についてより理解を!
・親は否定的な言葉を封印する。
・昼夜逆転生活の改善(昼に楽しいイベントを集中させる)
・親の勘違いは、ゲーム・ネット時間の軽減が重要なのではなく「生活の質の改善」にあることを識る
※【ASDのゲーム依存】
・時間や空間の構造化(午後●●時まで、使用は▲時間までなど)
・明確なルールを事前に設ける(ADの特性が強いほど、ルールを守れる場合もある)
・両親のASDの特性の理解
・日々の少しの改善点でもあれば、共有して褒める、
・相手のリアクションは関係ない。褒める積み重ねが子どもを救う
・リアルの改善をゆっくり進める(ライブに行く、外出する、本屋に行く、キャンプに行く、アルバイトするなど)
などを念頭に置いて、アプローチをする必要がありそうです。
ゲーム行動症に対する治療とは?
大きく、ゲーム行動性に対する治療方法として
①認知行動療法
②薬物療法(背景疾患の治療)
③家族療法
④家族療法+認知行動療法
となります。
主体となる治療は「認知行動療法」となっており、(Cognitive Behavior Therapy)はCBTとも呼ばれており、ストレスなどで固くなり狭まってしまっている考えや行動を、自分自身の力でとぎほぐし、自由に考えたり行動できるようにする心理療法となっています。
実際に日本で「ゲーム障がい:ゲーム行動症」の専門施設として「久里浜医療センター」の名が挙がります。
その施設で行われている独自の認知行動療法もあります。
こちらの施設の主な認知行動療法のポイントとしては、ごく一部ですが、
➡子どもたちが主体なのでウォーミングアップを入れながら心理士が進めていく
➡ゲームの時間を時計の円グラフで書き込み、多かった時間と短かった時間の1日の振り返りをする
➡人生にどれくらいゲームに費やしたか?の計算フローを提示。この時間を別に使っていたらどうなっているだろう。今後続けたらどれだけ失われるだろう?という自覚を持ってもらう
➡野外キャンプやアスレチックやトレッキングを合わせて行う
などを実施しています。
特にゲームの時間を他の活動に置き換えることが重要になってきます。ゲーム・ネット依存治療キャンプ前後3ヶ月後を調査した報告(Sakura H et al. Addictive Behaviors 2017)によると、ゲームやネットの使用日数は変わらなかったが、有意差をもって利用時間を減らせた。という結果も出ています。
ここでは薬物療法については詳しくは述べませんが、ADHDから派生するゲーム行動症だった場合は、ADHD薬を検討することによりADHD症状と衝動性だけではなくネットやゲーム依存度も低下させたという報告もあります。
【引用】Park JH et al. Hum Psychorharmacol Clin Exp,2016
認知行動療法に加えて、親に対するペアレントトレーニングも有効であるという報告もあり、親の助力があってこそ初めて治療が成立するという事も大いに考えられます。
治療においては認知行動療法、家族療法、薬物療法とありますが、うまく組み合わせて治療提供を行っていくことが重要になります。
改善のためのアプローチ
治療の内容と重複しますが、改善するために我々親がどのようにアプローチをしていくかが重要になります。
弊社主催のペアレントトレーニングでは、親も子も能動的に動いていただくことが重要であると考え、それに即したペアレントアウェアネス(親の気づき)を促すプログラムを用意しています。
周囲からの制限はまずもって無意味。適切なアプローチを親が学ぶことによって、家族の在り方に応じた最適な方法論を学んでいただくプログラムとしています。
もしご興味がある方は、子どものこころ専門医によるペアレントアウェアネスプログラムをご検討ください。
親子ともに能動的に自分の軸を設けていただくお手伝いをさせていただければと思います。
詳しくは過去記事をどうぞ
ゲーム障害(ゲーム行動症)はまさに現代病として認知がされるようになっています。
これから先、子どもたちに能動的になってもらうには、ゲームと自身、どう折り合いをつけて使っていくのか?
この点を家族間で考えていく必要が出てきています。
また、背景にある神経発達症の見落としもあり得るかもしれません。
であるならば、その合併症に応じた予防策を検討していくことが重要になってきます。
ゲームに子育てをさせるのではなく、我々親も真摯にこの問題に向き合っていきたいですよね。
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