自閉スペクトラム症(ASD)の方々は、感覚過敏を中心とする感覚の異常を持つことが多く、これはASDの診断基準にも含まれています。これらの感覚過敏は、日常生活上の問題となりますが、それだけでなく、発達初期からある感覚の問題によりASDの対人コミュニケーション障害が構築される可能性も指摘されています。
したがって、ASD当事者へのサポートを考える上では、感覚の特徴も踏まえた包括的な理解が重要であると言えます。
そんな中、一つの興味深い報告が論文上で公開されていました。
それは「自閉症における感覚刺激に対する神経反応の加齢変化」について見た研究となっており、アメリカのカリフォルニア大学から2023年10月に発表になったデータです。
それではその内容を詳しくご紹介していきたいと思います。
ASDにおいて感覚過敏は特徴的な症状の一つでもあります。
感覚過敏のタイプとしては、
✅聴覚過敏:突然の音や騒音に対して過敏な反応を示す
✅視覚過敏:光を異常に眩しく感じる
✅触覚過敏:物や人に触れることや特定の食感が苦手
✅嗅覚過敏:食べ物や匂いがあるものに対して過敏
✅味覚過敏:食感や味付けに苦手意識
これらの感覚過敏は日常生活や学校や社会生活において困難さを引き起こす原因となっています。この感覚過敏は小児期から成人期にかけてどうなるのか?が疑問点の一つでした。
すべてのASD者ではないですが、一部、成人期に改善する人もいると言われているが、発達過程において個人差がある原因は今のところ不明となっています。そこでこの研究が進められたという流れとなっています。
【何について調べているか?】
機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、感覚刺激に反応する神経活動と年齢の関連を調べる
参加者は、8.6~18.0歳のASD52名(14歳)と定型発達(TD)41名(13歳)であった
【何がわかったか?】
10代前のASD児では、健常児と比較して、感覚運動野、前頭野、小脳領域で広範囲に活性化の差が見られたが両者は10代では差は少なかった。
健常者では、年齢が高いほど前頭前野の活性化が少なかった。一方で、ASDの青少年では、年齢が高いほど感覚統合領域と感情調節領域の関与が強かった。
特に、ASDでは眼窩前頭皮質と内側前頭前皮質が年齢と非線形の関係を示し、特に10代半ばから後半にかけて感覚誘発神経活動が急峻に増加していた。
また、ASD青少年では年齢と感覚過敏の重症度との間には相互作用がみられていた
【今後にどう活かすか?】
年齢とともに、一定の患者で感覚過敏が減少しているケースが見受けられたとのことです。その患者の脳の状態を調べたところ、脳の前頭前野が活発化していることが一つの特徴であったとのことでした。
試験上、様々な制約があるのであくまでも参考程度にはなっています。今後は青年期における前頭前野と感覚過敏の発達の関連性を見極めることが重要になります。
一方で、「年齢の増加に伴い、感覚過敏が軽快する理由の一つに前頭前野の亢進が関わっている」という事がわかったということになります。
今までの研究では、ASD児の感覚過敏は個々の行動特性と関連しているので、試験を行いにくかったというところにあります。またその評価が客観的すぎて評価が難しいということがあったのも事実です。
そこで今回の報告では、感覚過敏の訴えがあるASD児が成長した段階での脳の状態がどうなっていたのか?という点を調べたというところに新規性があります。
ただし、ASD児が感覚過敏を有しているタイミングでの前頭前野の状態と、成長の節目ごとの前頭前野の状況を比較しない限りは経時的にどうなっているのかというところを断定的に言えないところが難点とも言えます。したがって、本当にこの問題がクリアできているかどうかは個々の症例を長期的に観察してMRI評価を行わなければならないということになるのが注意点ではあります。
また、養育者や支援者が、感覚過敏克服のためのトレーニングをどの程度行っているかという点も大きなポイントになるとも考えられます。生活に馴染むように徐々にトレーニングを重ねながら、成人期に克服できている背景に、このような結果が結びつくのであれば大きな目安にはなるかも識れません。
また、研究のためMRIを使用していますが、この判断のためにMRIを実臨床で行うのは限界があります。ちょっと現実的ではありません。なので、養育者や支援者が、子どもの発達の節目節目で過去苦手だった感覚が訓練を経てどうなったか?という振り返りの時期を入れることは重要と考えられます。もし克服していることが年齢とともに明らかになれば子どもにとっても自己肯定感を持つきっかけになるかもしれませんね。
当の本人しかわからないこの「感覚過敏」の苦痛。しかし、なかなかそれを周りに理解してもらうのは難しい現状です。だからこそ、養育者と支援者がこの点の克服のためにサポートをしつつ、軽快に至る道を模索することが重要ではないかと思います。
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