生きづらさを抱えながらも育児を頑張っている親御さん向けのプログラムとしてペアレントトレーニングが注目されています。
このペアレントトレーニングとは、ABA「応用行動分析」に基づいて親の子に対する行動面に対応するためのノウハウを得るためのプログラムともいわれています。
本来は神経発達症(ADHDやASDやLDなど)を持つ親御さん向けのプログラムとして、クリニックや専門機関の臨床心理士の方々が行うプログラムとして行われていたグループセッションでもあります。一種の認知行動療法も含むようなプログラムとなっており、神経発達症を有するお子さんを養育する親御さんへのサポートプログラムとして存在していました。
そのペアレントトレーニングにおける海外事例での検証結果が論文化されていましたのでシェアしています。
今まではこのプログラムの短期的な効果検証についての報告はありましたが、半年後にどのような影響をもたらしていたのか?を受講者にアンケートを取って分析しているという報告になります。
【行動訓練】ペアレントトレーニングは後手に回ってしまうと効果が減弱する可能性
●Sustained improvements by behavioural parent training for children with attention-deficit/hyperactivity disorder: A meta-analytic review of longer-term child and parental outcomes
【雑誌】JCPP Adv. 2023 Sep 4;3(3):e12196.
【impact score:0.9】
(オランダ:フローニンゲン大学児童青年精神医学教室)
【何について調べているか?】
ペアレントトレーニングはADHDの子どもに対するエビデンスに基づいた介入だが、初期の効果がどの程度維持されているかは知られていない。
そこで、ADHDの子どもに対するペアレント・トレーニングの長期的(すなわち、介入後2ヵ月以上)な子どもおよび親のアウトカムを検討した。
【何がわかったか?】
5ヶ月近くの追加観察で、ADHD症状、行動問題、前向きな子育て、親の有能感、親子関係の質に対する介入の有意な小~中等度の改善効果が確認。
親側の認識として、ADHD症状、行動問題、ポジティブな子育て、ネガティブな子育て、親の有能感、親子関係の質、親のメンタルヘルスの点で持続的な改善が示された。
女児のADHD症状や低年齢児の行動問題の減少を含む、子どもの転帰の変化の有意な予測因子が7つあった。
短期的な効果に関するいくつかのメタアナリシスとは対照的に、追跡調査時のADHD症状については、マスキングされた結果とマスキングされていない結果との間に差は認められなかった。
ペアレント・トレーニングは、子どものADHD症状や行動問題、そして前向きな育児行動、親の有能感、親子関係の質に対して長期的な効果があると結論づけた。
【日常にどう活かす?】
ペアレントトレーニングにおいて、主要評価項目であったADHD児のADHD症状と問題行為は5ヶ月ほどの追跡調査で効果は僅かであったとなっています。これは結構難しい解釈で、親御さんの理解が深まり、子に対するアプローチを知ったとしても、子どもの中核症状に対してダイレクトに作用するものではないので、その点のケアは別途必要になってくるとも言えます。
また、親の「否定的な子育て」と「親のメンタルヘルス」は改善傾向が微妙だったという結果になっていました。
一方で、肯定的な子育て、親の有能感、親子関係の質)においても有意な改善が認められたという内容になっており、それが半年近く持続的な効果が続いていた点というのが印象深いところになります。
ただ、主要評価項目の「否定的な子育て」「親のメンタル」の改善効果は小~中程度の改善であったということから、プログラムの変更や改善を検討する必要もありそうです。
今までのペアトレは、ABA(応用行動分析)に基づいた概念であったことから、子どもの行動に対する親の意識改革が主体でありましたが、
✅子どもの発達に応じたプログラムの改善
✅親御さんのメンタライジングに特化した内容のプログラムと併用
✅個々の家庭環境に応じた個別のカウンセリング
✅子供の状態については、かかりつけの専門医とのやり取りでフォロー
などを視野に入れていくのも大事になってきそうです。
あと、看過できないのが、子どもの診断のために専門医の予約を取ろうとしているにも関わらず数ヶ月待ちの状態。この待ちの状態で親子関係が悪化することが指摘されています。最終的に希望の治療を子どもにうけさせるまでに親子ともに疲弊してしまい、プログラムの効果が弱ってしまうこともありえるとされています。(ノセボ効果)
ノセボ効果というのは、病は気からの代名詞でもあり、様々な不信感の増強が生活や考え方に悪影響を及ぼすことを指します。
そうならないように、専門機関の予約を行っている間(待機待ちの長い間)にペアレントトレーニングを受ける必要性がありそうです。
ただし、通常のペアレントトレーニングは、神経発達症の診断がおりてからしか受けられません。
なので、診療予約が取れていない段階では通常受けることができず、後手に回りやすい状況かともいえます。
我々はそこに着目して、新規のペアレントアウェアネスというプログラムを立ち上げています。
下記にその変更点をまとめています。
このプログラムは小児精神科医が今までのペアレントトレーニングに改良を加えているものであり、
すでに我々が実施中のプログラムになります。
気になる方は、下記に実施団体の紹介とプログラム内容について解説していますのでご確認ください。
今回の論文の学びとしては、やはり世界各国のペアレントトレーニングは後手に回っているところが問題であり、
より早期に、かつ診断待ちをしている親御さんを対象に行わなければならないというところにあると言う点です。
一人でも多くの親御さんに能動的になって頂き、子どもの能動性を引き上げられるきっかけ作りになればと思います。
小児精神科医(子どものこころ専門医)と考える能動的な子育てコミュニティ 「受診する程ではないんだけど、子どもとの関わり方で悩む」「子育てに自信を持てない」といった親御さんが、その子の能動性を引き community.camp-fire.jp
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